2023年03月13日

新規事業で上手な失敗から学習する、プロダクトアウトとマーケットインの考え方

カテゴリー:ビジネス, 新規事業開発

タグ:DX, 基本用語

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歴史的なインフレや国際的なサプライチェーンの混乱など、ビジネスを取り巻く状況が大きく変化しています。既存のビジネスの安定した事業運営だけでは持続的な成長は難しく、新しい事業へのチャレンジが重要かつ不可欠になっているのです。

そこで必要になるのが、プロダクトアウトとマーケットインという考え方です。マーケティングや事業戦略の立案でよく知られている言葉ですが、実際にどのように使うのか、自分たちの行動パターンにどのように適用すればいいのか、きちんと理解しておけば大いに役に立つでしょう。

この記事では、新規事業開発において必要となるプロダクトアウトとマーケットインの考え方について詳しく解説します。

プロダクトアウトとマーケットインとは

プロダクトアウトとマーケットインは、ビジネス戦略の2つのアプローチです。じつは、和製英語だそうです。

プロダクトアウトは、1970年代までの高度成長期に、生活必需品などを多くの製品を作れば売れた時代のアプローチを指しています。しかし1980年代以降、供給が需要を上回るようになると「消費者の求めるモノを売る」というマーケットインのアプローチが主流になってきました。

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プロダクトアウトとマーケットインとは

プロダクトアウト(Product Out)とは

プロダクトアウトとは、自社の製品やサービスを起点にして、市場に投入するアプローチです。この方法では、企業が得意とする製品やサービスを提供すれば、お客様がそれを必要とすると信じています。

プロダクトアウトの代表例として取り上げられるのは、アップルのiPhoneです。画期的な新製品を提供することで、ユーザーに新しい価値を提供していきます。シーズ指向・技術指向といった言い方もできるでしょう。

このアプローチは、企業の強みを活用して新製品を開発することができますが、市場が本当にそれを求めているかどうかは不確実です。また、技術力や実現力が優れていないと差別化に至らず、簡単に真似されてしまうリスクがあります。

マーケットイン(Market In)とは

マーケットインは、市場が何を求めているかに基づいて製品やサービスを開発するアプローチです。このアプローチでは、企業は特定の市場や顧客セグメントに注目し、その領域のニーズや課題を理解して、それを解決する製品やサービスを開発します。

マーケットインの代表例としてよく取り上げられるのは、ソニーのウォークマンです。外で活動しながら音楽を聞きたいという当時の若者の嗜好を捉えて、ポータブル型音楽プレイヤーをヘッドフォンとセットで提供しました。ニーズ指向・顧客指向という言い方もできるでしょう。

このアプローチは、市場が必要とする製品を提供することができますが、特定市場やカテゴリに閉じ込められる傾向があり、そのニーズや傾向が急速に変化するとき、市場に追随する必要があります。

プロダクトアウトとマーケットインを新規事業にどう活かすか

では、今どきの新規事業開発に、プロダクトアウトとマーケットインの考え方をどのように活かせばいいのでしょうか。

新規事業の始め方

新規事業の多くは、次のような手順でスタートします。

  1. 自社状況と市場動向の分析
  2. アイデアの発見
  3. 素早く形にする(MVP)
  4. 想定ユーザーに売り込み反応を把握する

まずは自社の状況や市場の動向などを把握して、そこから何に取り組むべきかアイデアを見つけ出します。取り組むべきアイデアが見つかれば、それを素早く形にして、想定ユーザーに売り込んでみます。

最初の段階では、アイデアは単なる仮説に過ぎないので、ここで完璧な製品を作り込みません。その代わり製品・サービスの仮説検証を行うために最小限の機能を備えたプロダクト「MVP(Minimum Viable Product)」を用意します。そして、想定している顧客や個人にテスト販売してその反応を調査します。

つまり、この段階ではプロダクトとマーケティングの両方が揃っています。

最初のテスト販売は成功しない

しかし、最初からテスト販売が成功するとは限りません。というか、ほとんどの場合は思うような反応が得られないでしょう。これは失敗というよりも、自分たちの仮説が正しくなかったという新しい知見が得られたと捉えるべきでしょう。

この知見を元に、次の取り組みを始めますが、ここが行動の分岐点になります。プロダクトアウトとマーケットインで、得られた知見をどのように考えるか違ってくるのです。

プロダクトが刺さるポイントを見つける!

プロダクトアウトでは、提供した製品・サービスのMVPが顧客に刺さるポイントを見つけようとします。プロダクトにABCという機能があったら、「Aが気に入りましたか?」「Bがあると便利ですよね」と、製品・サービスのどの機能を使いたいか把握しようとします。

プロダクトアウトで、「Xという機能があればよかったのに」と別の機能の重要性に気付く場があります。また、すでによく似た課題を解決する競合製品が存在していて、それと比較して「Xと同じ機能がないのか」と言われる場合もあるでしょう。

競合製品と機能に違いがあるかだけではなく、その差別化要素がちゃんと利用者に気に入ってもらえるか把握することが重要です。たとえば、自社製品に他にはない機能Cがあったとしても、それを利用者が気に入らなければ差別化になりません。

プロダクトアウトでは、ユーザーが気に入るポイントを見つける

顧客にとって困っている重要なことを見つける!

マーケットインでは、製品の機能ではなく、顧客が困っていること、重要なことに注目します。MVPに対する反応がイマイチだったとしたら、「じゃあ、困っていることはなんですか?」「解決できたら良いなぁ、ってことはありますか?」と深掘りしていくのです。これは、ユーザーの「ペインポイント」などと呼ばれます。

複数のペインが見つかった場合は、その重要度の順番も把握します。

マーケットインでは、ユーザーが困っている課題を見つける

プロダクトのお気に入りポイントは、顧客にとって重要とは限らない

このように「プロダクトが刺さるポイント」と「顧客にとって困っていること」が得られたら、それに対応する次の施策を準備します。しかし注意が必要です。自社製品のお気に入りポイントが、顧客にとって重要とは限らないのです。

プロダクトアウトの考え方に捉われていると、自社製品の機能を気にするあまり、ユーザーにとって優先順位が低いことを見逃してしまうことがよくあります。ところが、自社が提供する製品カテゴリが、お客にとって重要とは限りません。他にももっと大切なことや本当に困っていることがあれば、自社の製品を買うのは後回しになるでしょう。

自社のプロダクトにこだわっていると、ユーザーの本当の課題が見えなくなるのです。

お気に入りポイントが顧客にとって重要とは限らない

「では、どうやったら優先順位を上げられるんだ!?」と気になるかも知れません。

そもそもユーザー課題の優先順位は、ユーザーの外部要因で決まることが多いものです。その優先順位を変更するのは、ユーザーが必要とする製品・サービスを提供するより、さらに難易度が高いでしょう。

最初のプランで失敗したあと、どんな行動を取るか

では、最初の仮説検証で失敗したあと、どんな行動を取ればいいのでしょうか。ほとんどの新規事業開発では、最初の仮説検証は必ずといって良いほど失敗するので、この行動を考えておくことはとても重要です。

パターンA. 別のマーケットで、同じプロダクトを売り込む

よくあるのは、せっかく作ったプロダクトを別の市場に投入することです。たとえば、ITエンジニア採用市場向けのマッチングサービスを作ったけど、受けが良くなかったので建設業界向けマッチングサービスとして再投入するといった具合です。これは、プロダクトアウトでよくある行動です。

最小限の機能を持ったMVPだったはずなのに機能を作り込んでしまったり自分のアイデア・コンセプトに執着したりすると、こういったことが起こります。開発したサービスを簡単に捨てられないからです。もしかすると、別の市場では受けが良いかも!とついつい期待してしまうのです。

でも、多くの場合、新しい市場についてはさらに理解が不足しています。別の市場で新しい顧客を見つけるのに手間がかかったり、顧客課題の把握にさらに時間が必要であったりして、かなり苦戦しそうです。

パターンB. 同じマーケットで、同じプロダクトを機能追加して売り込む

では、同じ市場で、同じプロダクトに機能を追加して提供するのはどうでしょう。これも、プロダクトアウトでよくある行動パターンですね。「この機能があったら良いのになぁ」とか「競合製品にはこの機能があるんだよな」といった言葉に期待して、プロダクトに顧客が欲しいといった機能をどんどん追加していくのです。

しかし、先ほど説明したように、お気に入りの機能が顧客にとって重要とは限りません。「その機能を気に入りましたか?」「あったら良い機能を教えてください」と質問されたから答えただけだったりするのです。他にも優先順位の高い課題があれば、自社製品も競合製品も使うのはやっぱり後回しになるでしょう。

パターンC. 同じマーケットで、別の課題の解決を目指す

そこで最もオススメしたいのが、元々の市場で、お客様が一番困っている課題の解決策を提供することです。そのためには、元々のアイデアやプロダクトを前提としないことです。お客様にとって本当に困っていることであれば、その解決策は喉から手が出るほど欲しいはずです。その解決策のほうが新たなビジネスになる可能性が高いのです。

ここでも重要なのはMVPです。最初のMVPはユーザーと対話するためのきっかけに過ぎません。もしもMVPが提供する解決策の優先順位が低いのであれば、MVPは思い切って捨てる必要があります。そのためには、MVPを作り込むのではなく、作り直したり捨たりしても惜しくないようにしておくのです。

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失敗した後、どんな行動をとるか

新規事業開発で重要なのは、お客様の本当の課題を解決すること

自社の得意領域から導き出した新しい事業のアイデアを捨てるのは簡単ではありません。また、お客様の本当の課題を見つけたとしても、それを自社の人材や資源で解決する方法を見つけるのも一筋縄ではいかないでしょう。ついつい最初のアイデアやMVPにしがみついて、それを喜んで使ってくれるユーザーを見つけたくなるものです。

でも、本当の新規事業開発がそもそも難易度が高いことです。それを実現できれば、自社に大きな価値をもたらすはずです。

それに、特定の市場や顧客セグメントで最も重要な課題を他に先んじて解決できれば、その次に重要な課題の解決策も求められるかも知れませんし、当初のアイデアにお客様が取り組む余力も生まれます。

そのとき、あなたの会社はその市場にとってなくてはならない存在になっているでしょう。

プロダクトアウトとマーケットインだけが重要なのか

プロダクトアウトとマーケットインというキーワードから、新規事業開発をどのように進めていくのか解説してきました。

この2つのアプロ―チは、どちらが正解、どちらが重要というものではなく、両方をバランスよく進めて、顧客の本当の課題を見つけて、その解決を目指すことが重要となります。

片方だけでは、次のように限界があります。

マーケットインの限界

  • 市場調査に基づいても、売れる製品ができるとは限らない
  • 顧客は、本当に欲しいものを明確に知らない
  • 顧客を一人みつけたが、一人しかいなかった

プロダクトアウトの限界

  • モノがあふれる現代は、顧客がモノを欲しがらない
  • 無理やり差別化しても、それが十分な魅力になるとは限らない
  • 機能・ソリューションだけではない価値にならない
  • 圧倒的な魅力を生み出せる技術力を、ほとんどの企業は持っていない

プロダクトアウトとマーケットインの考え方が活かされるのは、自分たちの考え方のクセを見つけるときだと思います。プロダクトアウトが得意な会社は、プロダクトアウトばかり考えがちです。マーケットインが得意な会社は、お客の声ばかり聞く御用聞きになってしまい、そこから顧客基盤が広がっていきません。

自分たちの考え方が偏っていないかチェックして、アプローチに幅を持たせるために使うといいでしょう。最初から正解は分からないので、小さく作って素早く試すことを心がけましょう。

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