2022年10月26日

イノベーションマネジメントがビジネス変革を推進する – その勘所とは?

カテゴリー:ビジネス, 新規事業開発

タグ:DX, イノベーション

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イノベーションは「革新」「進化」などを表し、企業にとっては「新しい付加価値生み出すための手段」でもあります。しかし、イノベーションには偶発性があり、属人性やコストなど種々の課題があることも事実です。このようなイノベーションに関する課題を解決する方法として「イノベーションマネジメント」があります。ここでは、イノベーションマネジメントの基礎知識と取り組み方のヒントを紹介します。

イノベーションマネジメントとは

イノベーションマネジメントとは、イノベーションに適した状況を作るために必要な活動を管理することです。多くの企業にとってイノベーションの目的は「新たな付加価値の創造」であり、そのために自社の仕組みを変え続けることが必要とされます。このとき、イノベーションマネジメントによって変革の指針を管理したり、変革状況を管理したりすることで、イノベーションがスムーズに進むと考えられているのです。

なぜイノベーションマネジメントなのか?

移り変わりの激しい昨今のビジネス状況において、企業が成長していくためには新しい付加価値の創出が欠かせません。したがって、イノベーションは常に求められている状況です。しかし、イノベーションは才能にあふれた人材や、偶然の産物から得られる例が少なくありません。

そこで、イノベーションに必要とされる要素を管理し、継続的に稼働させることでイノベーションを安定的に生み出すことが必要と考えられるようになりました。

イノベーションマネジメントに必須の要素

イノベーションマネジメントで必須とされる要素として、ビジャイ・ゴビンダラジャン氏は以下2つを挙げています。

1) イノベーションチームとパフォーマンスエンジン

イノベーションチームとは文字通りイノベーションを手がけるチームです。これに対してパフォーマンスエンジンは既存事業に取り組むチームを指します。イノベーションを生み出しつづけるためには専用のチーム(イノベーションチーム)が必要であり、この活動をささえるのがパフォーマンスエンジンによって生み出されるキャッシュ(資金)です。

2) 厳密な学習プロセスに基づく計画

ゴビンダラジャン氏は、イノベーションを安定的に生み出すために、その過程を計画として起こすことが必要だとしています。具体的には、行動の計画・実験・仮説の立案と検証といったプロセスを経てイノベーションの学習を進めていくのです。これを繰り返すことでチームはイノベーションの特性を学び、適切な管理方法(マネジメント)が実行できるようになるとされています。

イノベーションの取り組み方とは

これらイノベーションマネジメントの定義やセオリーを理解できたとしても、実際に取り組むためにはもっと具体的な指針が必要です。また、大小さまざまな壁にぶつかることもあるでしょう。こうした課題を解決するために、経済産業省が設置しているイノベーション100委員会では、イノベーションの具体的な進め方をまとめた「手引書」を公開しています。

イノベーション100委員会は、「大企業からイノベーションは興らない」という定説を覆すため、イノベーションに関して先駆的な取組みを行ってきた日本の大企業経営者をメンバーとして設立された経済産業省による活動です。手引書は、2019年7月に発行されたイノベーション・マネジメントシステムに関する国際規格(ISO56002)の考え方をもとにしています。今回はこの手引書を参考にしながら、イノベーションへの取り組み方をまとめてみました。

1) 何を目指すのか

まず、イノベーションによって「実現したい未来や価値」を構想・定義して、そこに至るまでの戦略をつくり、社内外に発信します。イノベーションに対する「ビジョンの創造と共有」が行われることにより、イノベーションチームの活動内容やゴールも明確になりやすく、実現性の高い戦略立案に結びつくはずです。

2) なぜ取り組むのか

これまでの自社の活動や理念を振り返り、今後訪れるであろう危機や未来を見据えながら自社のアイデンティティを明確にします。自社の社風や文化、コアコンピタンスなどを見える化していくのです。

3) 誰が取り組むのか

イノベーションを成功させるには、専用のチームにだれを配置するかがとても大切です。また、中長期の活動が必要となるため、既存事業から独立した人材が必要とされます。このとき、既存事業での成果を基準として人材を集めるのではなく、熱意やモチベーションを重視して選抜を進めることが重要です。

4) 何に取り組むのか 

イノベーションに関する活動は短期的に利益を生まず、社内や投資家からの理解を得にくいこともあります。しかし、イノベーションは不確実性を含むため、短期的な利益にのみ着目していては新しい価値創造の芽を摘むことになります。そこで、既存事業の強化を行いつつイノベーションのための投資を続けることが大切です。これはオライリーとタッシュマンによる「両利きの経営(知の深化と探索の両立)」に通ずる考え方とも言えます。

5) どのように取り組むのか

イノベーションを起こすためには「創造と探求」に特化した活動が求められます。そのため、イノベーションチームの運営は、効率性を重視した既存事業とは分けて考える必要があるでしょう。具体的には、イノベーションチーム専用の評価基準を設け、スピード感のある試行錯誤が進めやすい体制を作ります。

6) どのように、続けるのか

上記に関連して、予算枠の確保や決算権限の委譲も進めていきましょう。経営状況に関わらずイノベーションチームの活動に一定の予算を付与し、チームの責任者には決裁権限を与えるのです。資金・人材・権限・ノウハウをしっかり投入し続けることで、イノベーションの発生確率は上がっていくと考えられます。ここで重要なのは「小さく早く失敗し、経験値を増やし、変革につなげる」ということです。既存事業の基準では失敗とされる状況であっても、投資が打ち切られないような体制を作るべきです。

7) どのように進化させるのか

イノベーションは、外部との連携によって大きく成長することがあります・そのため、イノベーションチームと既存事業部、もしくは社外のチームの連携がスムーズに進むような体制づくりが重要です。スタートアップ企業や大学、公的団体などできるだけ多くの連携先を確保し、連携先との活動を評価する仕組みも整えたいところです。

イノベーションマネジメントの勘所

最後に、イノベーションマネジメントの勘所について紹介します。イノベーションは組織改編や意識改革が伴うため、クイックに取り組みづらいケースも多く存在します。そこで、まずは専用チームを作り、アジャイルで小さく・素早くチャレンジすることを念頭に置いてみてはいかがでしょうか。

既存事業部門とは別に専用のチームを作り「探索」する

イノベーションの実践的な方法論として「両利きの経営」があります。両利きの経営では、「知の探索」と「知の深化」という2つのモードを切り替えることが推奨されています。知の探索とは新規事業であり、深化は既存事業の強化です。これらは別のリソースで、かつ並行して行うことが大切だとされています。そこでまずは、探索専用のチーム(イノベーションチーム)を作り、意思決定権限と実行力(IT基盤の整備や予算付与)を与えていきましょう。

アジャイル的な組織体制で小さく素早くチャレンジする

イノベーションチームの組成が完了したあとは、アジャイル的な運用を進めていきましょう。イノベーションのためには「小さく早く失敗し、改善する」ことが求められるからです。特に「イテレーション」を取り入れることで、スピード感と柔軟性のある事業展開が可能になります。イテレーションとは、数週間を1つの単位とし、設計・開発・テスト・改善を繰り返す考え方です。

まとめ

今回はイノベーションマネジメントの概要や、具体的な取り組み方について解説しました。イノベーションマネジメントは、比較的新しい考え方です。日本での本格的な普及はこれからであり、事例も少ないというのが実情です。イノベーションを進めるにあたり、何らかのモデルが必要だと考えるならば、本稿で紹介した「専用チームによる探索とアジャイル的な組織体制」という2軸から始めてみてはいかがでしょうか。

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