COLUMN
コラム
2026年09月04日
成熟度レベルは上がったのに、なぜかコストが膨らみ続ける。AI成熟度モデルに欠けている『トークン』という物差し
「AI成熟度モデルでレベルを上げよう」——2026年、こうした号令を耳にする機会が増えました。GartnerやMicrosoft、IBM、そして日本ではIPA(情報処理推進機構)までもが、組織のAI活用度合いを測る成熟度モデルを相次いで公開しています。
ところが、いざ自社のレベルを一段引き上げようとすると、多くの現場でぶつかる壁があります。それが「トークン」というコストの物差しです。
1. AI成熟度モデルとは何か——Gartner・IBM・Microsoft・IPAが示す「現在地」の測り方
AI成熟度モデルとは、組織がAIをどれだけ戦略的・組織的に活用できているかを段階的に評価するフレームワークです。
代表例のひとつが、日立製作所とGen-AX株式会社が共同開発し、IPAが紹介している「MA-ATRIX」です。組織・業務&データ・AI・統合の4領域、7つの評価軸をもとに、AI未導入の「レベル0」から自律最適化の「レベル6」まで7段階で成熟度を診断します(IPA「MA-ATRIX」の解説)。
一方、Microsoftが公開している「Agentic AI 導入成熟度モデル」は、能力成熟度モデル(CMM)をベースに、初期段階の「レベル100」から最適化された「レベル500」までの5段階と、AI戦略・ガバナンス・技術基盤・組織文化など5つの機能の柱で評価する枠組みです(Microsoft Learn)。
主要モデルに共通する「進み方」
- 個別・場当たり的な利用(試験導入)
- 基本方針・標準の明文化(ガバナンス整備)
- 全社統一標準による運用(標準化・展開)
- 定量的な効果測定・自律的な最適化
実際、IPAが2026年7月に公表した国内企業のDX動向・AI活用調査でも、AI導入は大企業を中心に広がっているものの、期待どおりの効果を得られている企業は限定的で、活用は業務効率化が中心にとどまり、企業価値創出につながる展開はまだ少ないと指摘されています(IPA プレスリリース)。成熟度モデルという「地図」は手に入っても、実際に前へ進めていない組織が多いのが実情です。
こうした「次のレベルに進むための足場」——検証環境やコスト設計——について、HexabaseではKuboのようなマネージド基盤を通じて実務面から支援しています。ここからは、成熟度モデルがあまり語らない「トークン」という運用コストの物差しを掘り下げます。
2. 成熟度が上がるほど、なぜかコストが読めなくなる——見落とされがちな「トークン」という変数
主要な成熟度モデルの評価軸を見比べると、共通して重視されているのは戦略・ガバナンス・組織文化であり、独立した「コスト効率」の軸を明示しているモデルは多くありません。ところが実際の現場では、AIがチャットボットからエージェントへと進化するにつれ、消費するトークン量が跳ね上がっています。
Gartnerが2026年3月に示した予測によれば、エージェンティックなAIモデルは標準的なチャットボットに比べて1タスクの完了に5〜30倍のトークンを必要とするとされています。さらに同社は2026年8月17日、ワークフローあたりのAI推論コストが2028年までに5倍以上に増加すると予測しました(ITmedia エンタープライズ)。
トークン単価そのものは2025年から2030年にかけて90%以上下がる見通しがある一方で、複雑なワークフローほど消費トークン数が膨らみ、総コストはむしろ上昇する——これは「推論のパラドックス」とも呼ばれています。
別の調査では、AIモデルのトークン消費量が過去4年間で24倍に増加したとも報告されており、多くの企業にとってAI活用コストの正確な把握は依然として難しい課題です(ITmedia エンタープライズ)。
NVIDIAも、AI活用が実証実験から本番運用のフェーズに入ると、評価すべき指標は「モデルの精度」から「トークンあたりのコスト」へとシフトすると指摘しています(NVIDIA Japan Blog)。成熟度モデルの上位レベルに進むということは、技術的な高度化であると同時に、トークンという新しい会計科目を管理する経営課題でもあるのです。
AIエージェントの運用でトークン消費が読みにくいという課題に対しては、業務ごとに用途を絞った専用エージェントを設計できるCaptain.AIのようなAIエージェント実行基盤を使うことで、無秩序なトークン消費を防ぎやすくなります。
3. レベルが上がるほど必要になる「検証環境」——成熟度モデルが示す隠れた技術要件
トークンコストだけでなく、成熟度モデルが暗に求めているもうひとつの要件が「検証環境の整備」です。Microsoftの成熟度モデルでは、比較的初期段階にあたる「レベル200(反復可能)」の到達目安として、すでに「セキュリティレビュー用に開発・テスト・運用環境が個別に存在すること」「環境の基本的な分離」が明記されています。AIエージェントを安全に拡張していくためには、成熟度が低い段階から開発・検証・本番の環境を分けておく必要があるということです。
実際、AIエージェント導入の実態調査でも、複数部門にAIエージェント展開を拡大している組織は43%にのぼる一方で、大規模なマルチエージェント環境を構築できている組織はわずか15%、現行の業務プロセスがAIエージェントに対応できている組織は16%にとどまるとされています(ZDNET Japan(Yahoo!ニュース))。展開だけが先行し、足場となる環境設計が追いついていない組織が多いことがうかがえます。
環境分離の基本設計は、Google Cloudが公開しているKubernetesのベストプラクティスでも、開発・検証・本番といった単位でNamespaceを分離し、リソースやアクセス権を独立させることが推奨されています(Google Cloud 公式ドキュメント)。
検証環境で選ばれるマネージドコンテナサービス「Kubo」のような基盤を使えば、開発・検証・本番のKubernetesクラスタを分離しながら、月額8,800円〜という価格感で環境を用意できます。成熟度モデルが求める「環境分離」を、コストを抑えて早い段階から実装しやすくなります。
4. 明日から始められる、成熟度を「数字で」上げる3つの視点
①トークン単価とコストを可視化する
マネーフォワードが2026年8月に提供を始めた「クラウドAIトークン管理」のように、ユーザーごとのAIサービス利用量とコストをダッシュボードで可視化するサービスが登場しています(ITmedia AI+)。まずは自社のトークン消費がどの業務・部門に偏っているかを可視化することが、成熟度を数字で語るための第一歩です。
②検証環境と本番環境を分離してから拡張する
前章で見たとおり、成熟度モデルの初期段階から環境分離は求められる要件です。全社展開を急ぐ前に、検証環境で安全にトークン消費量やエラー率を計測できる体制を整えましょう。
③エージェント設計時にコスト閾値をあらかじめ決めておく
運用コストが想定予算の一定割合を超えたら見直す、といった閾値をエージェント設計の段階から決めておくと、成熟度が上がるほどコストが読めなくなるという事態を防ぎやすくなります。
AI活用を本格的に社内に根づかせたい方には、実践的な内製化のノウハウを学べるAI駆動開発セミナーもひとつの選択肢です。
5. まとめ
Gartner・IBM・Microsoft・IPAが示すAI成熟度モデルは、自社の「現在地」を知るための優れた地図です。しかし地図を読むだけでは、組織は一歩も前進しません。トークンコストという新しい会計科目を可視化し、成熟度モデルの初期段階から検証環境という足場を用意すること——この2つが揃って初めて、成熟度は数字として上がっていきます。
自社の成熟度診断やトークンコスト設計について相談したい方は、Hexabaseの無料相談から気軽に問い合わせてください。実践的にAI活用を進めるスキルを体系的に学びたい方には、AI駆動開発セミナーもおすすめです。