2023年02月25日

新規事業の立ち上げに必要となるプロセスや有効なフレームワークとは?

カテゴリー:ビジネス, 新規事業開発

タグ:DX, スタートアップ

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グローバル化やコロナ禍など、事業環境が目まぐるしく変化する現代においては、既存事業だけでは安定した収益確保が難しい状況にあります。多くの企業では新規事業を開発し自社のビジネスを拡大していく必要性に迫られています。

新規事業の立ち上げはどのように進めていくべきなのでしょうか。この記事では新規事業立ち上げにおいて必要となるプロセスや、各プロセスにおいて活用できるフレームワーク・方法論について解説します。

立ち上げプロセス01:経営戦略とドメインの確認

新規事業を検討する際に、まず検討すべきは自社の経営戦略との整合性を意識して、対象とするドメインを決定することです。具体的には以下のとおりです。

事業ドメインの決定

事業ドメインとは、展開する事業の範囲を規定するものです。エーベルの3次元枠組みと呼ばれる考え方では、どのような「顧客」に対して、どんな「機能」を、どのような「技術」で提供するかによって定義するものとされます。

これらを規定するためには、ターゲットとする顧客のニーズや顧客が持っている課題に対して仮説を立てたうえで、それらを解決するための機能を持ったプロダクトを、自社が所有する技術などの優位性を活用して提供する方法を検討していくことになります。

自社の経営戦略・経営理念との整合性

既存企業において新規事業を立ち上げる場合には、定義した事業ドメインが既存の経営戦略と整合しているという観点が必要となります。

通常、企業は設立の理念に基づきこれまで活動を続けており、そのために必要な人材や設備、ノウハウなどの経営資源を獲得してきています。これらを活用せず全く新しい領域に事業を発展させていく方法もありますが、基本的な戦略としては自社の経営資源を生かすことを考えるべきでしょう。

自社の経営資源を生かせるような新規事業の計画となっているかを、まずチェックします。

経営資源の活用

このように、新規事業を行っていく上では自社の経営資源を生かすという観点が必要となります。

たとえば、自社の経営資源を整理する方法としてVRIO分析が知られています。VRIO分析では「資源の価値」「資源の希少性」「資源の模倣困難性」「組織力」という4つの観点で自社の経営資源を整理します。

自社の資源に価値があったとしても、それが容易に他社に真似されてしまうものであれば、その資源は競争力の源泉とはなりにくいといえます。4つの観点を踏まえ、競争力の源泉となりえる経営資源を生かした新規事業を検討します。

また、多角化戦略としてシナジーを生かすという観点もポイントです。自社の既存事業を生かすことで、新規事業の競争力を確保するというのがシナジーの考え方となります。

たとえば、コンビニエンスストアで宅配便の受け取りができるサービスは、「利便性のよい立地」や「荷物を留め置ける場所」、「ルーティンとして訪れる消費者の存在」といったコンビニが持つ経営資源を活用して実現されているものととらえられます。

立ち上げプロセス02:市場分析

これまでは自社の内部に注目して新規事業を検討してきましたが、もう一つ外部環境についても精査が必要となります。

顧客ニーズ分析

上述した業界構造のうち、現代のビジネスにおいては特に「買い手」、つまり顧客のニーズ分析が重要とされます。

顧客のニーズの多様化を背景にセグメントも詳細化しており、よりターゲットにフィットしたプロダクトの提供が求められます。また、いわゆるリテンションモデルに代表されるように、プロダクトのスイッチングコストが低下しており、契約継続率を高めるためには顧客に「熱狂的なレベル」でプロダクトを利用してもらわなければならない環境にある点も考慮が必要です。

このように、買い手の交渉力が高まっている現状においては、顧客のニーズを正確にとらえ、ニーズを満たすためのプロダクト提供が求められます。

業界構造分析

業界構造を分析する方法として知られているのがファイブ・フォースモデルです。このモデルでは、自社の事業に影響を及ぼす要因を5つの力(ファイブ・フォース)として整理します。これは、新規事業のターゲットとする市場が「儲かる市場」であるかを分析するのに役に立ちます。

具体的には、以下の観点で業界構造を分析します。

  • 既存業者の敵対関係:既に参入している企業の競争関係を分析する。
  • 新規参入企業の脅威:その業界への参入障壁の高さを分析する。
  • 代替品の脅威:その市場で提供されるプロダクトと同じ機能を持った別プロダクトが存在するか、もしくは開発される可能性があるかを分析する。
  • 売り手の交渉力:部品・製品の仕入先の交渉力を分析する。
  • 買い手の交渉力:消費者や取引先などの交渉力を分析する。

競争戦略の検討

業界構造分析を踏まえ、他社との競争優位性を確保するために、どのような戦略をとっていくかを検討します。一般的には、以下の3つの基本戦略があるとされています。

  • 差別化戦略:他社のプロダクトとは異なる魅力や価値を提供する。
  • コストリーダーシップ戦略:他社よりも低いコストでプロダクトを提供する。
  • 集中戦略:市場を細分化し、よりニッチなニーズに合わせてプロダクトを提供する。

また、近年においてはデジタル技術の活用も競争戦略を検討する上では欠かせません。顧客のニーズを満たす形でデジタル技術を活用し、差別化戦略を図っていくことで、競争優位性を確保しやすくなります。

このような、いわゆるDXの観点も新規事業開発においては必須といえるでしょう。

立ち上げプロセス03:コンセプト実証と投資判断

ビジネスのスピードが向上する現代においては、素早く新規事業のコンセプトを実証し、新規事業として投資を行うに値するかを検証していく必要があります。
近年では、様々なプロダクトの開発プロセスが提案されています。ここでは、主にスタートアップ企業が採用すべきプロセスとして知られる「リーンスタートアップ」という方法論に沿ってご紹介します。

ステップごとに検証を実施する

リーンスタートアップでは、起業において以下のステップにより提供するプロダクトの成熟化を図っていくべきとされます。

  • CPF(Customer / Problem Fit):顧客の課題を正確に理解する。
  • PSF(Problem / Solution Fit):顧客の課題を解決できるソリューション(解決策)を定義する。
  • SPF (Solution / Product Fit):解決策を実現する製品・サービスを開発する
  • PMF(Product / Market Fit):プロダクトがターゲットとする市場に受け入れられることを確認する。

市場分析により顧客の課題を正確に理解するフェーズがCPFといえます。CPFを達成したのち、顧客の課題を解決できるソリューションを検討します。この際、活用できる自社の経営資源やデジタル技術なども踏まえて、競争力を確保できるソリューションを定義します。

そして、ソリューションを実現するプロダクトを試験的に市場へ投入し、反応を見ることでプロダクトが市場に受け入れられるものであるか、つまりPMFを達成しているかを判断します。

なお、この検証はプロセス2の顧客ニーズ分析と並行して実施する良いでしょう。分析した結果から仮説を導き出し、それが本当に該当するのか検証するのです。

MVP構築

これらの仮説検証においては、MVP(Minimum Viable Product)の構築が有効です。MVPとは最小限の機能を備えたプロダクトのことであり、実際に動作するプロダクトを想定ユーザーに利用してもらうことで、コンセプトの検証やフィードバックによる改善などを行うことができます。

MVPの詳細については以下の記事もご参照ください。

投資の可否判断

本格的に新規事業を開始するためには、設備投資や販促費、人件費など様々な投資が必要となります。よって、新規事業の開始は慎重に判断する必要があります。

ひとつの方法は、ステージゲート法による段階的なジャッチです。ステージゲート法とは、アイディア段階、MVP構築段階、テスト段階など、ステージごとにゲートを設けて、各ゲートで次のステージに進むかどうかを判断する方法です。

これにより、様々なアイディアをスクリーニングしつつ、見込みのない新規事業は途中で中止することで、新規事業開発における投資効率を上げることができます。

最終的に、全てのゲートを通過した事業のみが、新規事業として投資対象となります。

新規事業立ち上げの注意点

新規事業立ち上げにおいて、次の点に注意する必要があります。

自社に都合のいい情報ばかり集めない

自社の経営戦略や経営資源・顧客ニーズの分析を行っていると、ついつい自社に都合のいい情報ばかり集めがちになります。自社の強みを見つけようとするあまり、認知バイアスが働いてしまうのです。

このような分析はバラ色の結果が得られますが、実際に検証してみれば絵にかいた餅だと分かるはずです。担当者の主観が入らないようにして、事実ベースで情報を収集しましょう。

顧客から見た重要度を把握する

顧客ニーズの分析でも、自社の製品を買ってくれる理由ばかり調べていてもうまくいきません。買ってくれる理由が見つかっても、それが重要でなければ顧客の選択肢に上がってこないからです。

顧客はたくさんの選択肢を持っています。もしかすると自社製品が提供する価値を手に入れなくても特に困らないかも知れません。

説明より実証を

新規事業の立ち上げでは、多くの人の協力が必要になります。協力を得るためには、情報の共有が不可欠ですが、説明資料の制作に時間をかけるより、仮説検証の時間を取り、その実績を伝えたほうが協力が得やすくなります。

仮説検証していない事業プランは、極端な言い方ですが企画者の妄想の域を出ません。どんなに見栄えのいいスライドを作っても、それが本当なのか判断が付かないからです。完璧なプランを作ってもプランはプランです。

でも、仮説検証で顧客ニーズを実証できれば、ぐっと説得力が増すはずです。できるだけ低コストで検証できる方法を考えて、すばやく実行しましょう。

まとめ

この記事では、新規事業の立ち上げプロセスについて解説を行いました。新規事業開発においては、経営学・マーケティング論などの観点から様々な手法が提案されています。これらを活用しつつ、最新のデジタル技術の導入も検討することで、優れた新規事業開発の実現につながりやすくなります。

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