2022年7月29日

ブックレビュー:はじめよう!プロセス設計 ~ 要件定義のその前に

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プロセスというワードは、ソフトウェアやシステム開発以外でもよく見かける言葉の1つです。ビジネスの文脈では、作業手順や業務の流れという意味で使います。でも、本書のタイトルにある「プロセス設計」とは何なのでしょうか。そして、具体的に何をどのように設計すればいいのでしょうか。

プロセス設計とは、システム開発においてシステム化する対象の業務や作業を明確にした上で、最適な作業の流れを定義することを指します。本来は、システム開発の要件定義の前に済ませておく作業です。これをやっておかないと、何をシステム化すればいいのか曖昧になって、ぼんやりしたまま開発プロジェクトが始まってしまうことも少なくありません。

そこで今回は、プロセス設計についてわかりやすく解説した本を紹介します。取り上げるのは、羽生章宏氏の「はじめよう!プロセス設計 ~ 要件定義のその前に」です。前回取り上げた「はじめよう!要件定義」の第2段として2016年に出版されました。タイトルにあるのように、要件定義の前にやるべき業務プロセスの可視化と最適化について解説しています。

本書はどんな人に役立つのか

出版社の紹介ページでは「システム開発の上流工程に関わるエンジニアやマネージャー、要件定義を行うWebデザイナー、発注側企業の情報システム部門、IT導入を企画検討する部門担当者、ビジネスプロセスの改善・合理化・効率化を考える経営者層」におすすめとしています。つまり、システム開発の上流工程やシステム開発を発注する側の役に立つのです。

システムエンジニア向けの解説書だと思うかも知れませんが、実際に読んでみると、システム開発が必要となる多くのビジネスに役立つ内容でした。

本書の構成

本書の目次は次のようになっています。たくさんページがあるように見えますが、240ページとコンパクトな内容になっています。

第1部 プロセス設計って何だろう?

CHAPTER 01 「モヤモヤ」が止まらない

CHAPTER 02 プロセスとは何か

CHAPTER 03 プロセス設計とは

第2部 プロセスの構成要素

CHAPTER 04 プロセス=仕事の連なり

CHAPTER 05 評価と価値と対価

CHAPTER 06 心の仕事

CHAPTER 07 もしもの世界

CHAPTER 08 プロセスをどう表現するか

CHAPTER 09 マジカでプロセスを表現する

CHAPTER 10 マジカでサンプルを描いてみる

第 2.5部 既存プロセスの見える化

〜第2部と第3部の間のお話〜

CHAPTER 11 現状を可視化する

CHAPTER 12 既存システムのリプレース案件にて

CHAPTER 13 パッケージソフトやシステムに業務を合わせるという話

第3部 プロセスの設計方法

CHAPTER 14 基本的な考え方=ストーリー指向

CHAPTER 15 ゴールを明確にする

CHAPTER 16 3本のプロセスライン

CHAPTER 17 カスタマーエクスペリエンスを描く

CHAPTER 18 サービスデザインを描く

CHAPTER 19 ユーザシナリオを描く

CHAPTER 20 全体を見直してみる

まとめ 現代の魔法つかいとして

全体は、大きく3つの内容に分かれていますが、第2部と第3部の間に、第2.5部があります。これは、プロセス設計でどんなケースを対象にできるのか取り上げてます。

本書のポイント

ここからは、本書の内容で重要だと感じたポイントを解説していきます。

プロセス設計の意味

本書の第1部では、プロセスとは何かを説明した上で、プロセス設計が何をもたらすのか解説しています。

本書ではプロセスを「ある成果を出すためにやること」だと説明しています。次のようにプロセスを使用する多数の言葉が存在していますが、すべてゴールにいきつくまでの過程・道筋を表しています。

  • ビジネスプロセス
  • 業務プロセス
  • ソフトウェア開発プロセス
  • 製造・生産プロセス

また、プロセス設計を行う意味は、次の3つの手順を含むと述べています。これも、プロセスを設計するためのプロセスですね。

  1. 出すべき成果を定める
  2. 成果を出すために必要な仕事を考えて定める
  3. 定めた一連の仕事を誰でも理解して実行できるように実施する

ゴールを設定し、必要な要素を定め、どのような人でも把握して実行できるような項目を定めることがプロセス設計だといえるでしょう。

プロセス設計を構成する要素

第2部では、プロセスについてさらに詳しく説明するため、プロセスの構成要素とプロセスを記述する方法を具体的に解説しています。

本書では、プロセス設計において、仕事の本質は変換にあると述べています。

仕事の材料になるデータや素材を具体的な成果に変換し、その成果を材料にして次の段階でまた変換をおこなう。この一連の流れを上手く連鎖していくことが、さらに大きな効果的な成果を生み出していく。だから、仕事の本質は変換なのです。

また、本書では、プロセスを具体的に記述する手段として、マジカという独自の方法を紹介しています。マジカでは、いくつかのカードを使って、そこに描かれたイラストと吹き出しに、業務の各ステップでやることを埋めていきます。このカードを並べるだけで業務のプロセスを表現できるのです。

マジカを使うと、知識や経験の有無に関係なく手軽・気軽に業務可視化に取り組むことができるツールです。著者の羽生氏は、このマジカを実際に使って、多くの現場の人たちと業務プロセスを記述してきたそうです。

マジカについては、次のWebサイトでも紹介されています。カードやツールなども無料で公開されているので、興味をもったら実際に試してみると良いでしょう。

現状のプロセスの見える化と顧客のニーズ

本書の第2.5部では、どんなケースをプロセス設計の対象にできるのか説明しています。そして、既存プロセスの見える化、既存システムのリプレース、パッケージソフトウェアに業務を合わせる場合を取り上げています。例えば、現状のプロセスを見える化では、お互いの仕事内容を知る・自分の役割の再確認・強みの確認が可能になると述べています。

プロセス設計の3つのポイント

本書の第3部では、プロセスを設計する方法について具体的に解説しています。

本書ではプロセス設計のポイントとして、次の3つを上げています。

  • 基本的にストーリー指向で描く
  • ゴール設定を明確化する
  • 顧客、支援者(商品・サービス供給者)、ITプロセスのプロセスラインを描く

とくにストーリー指向に関しては、ゴールを決めてからあらすじを作っていくことが大切です。そのため、大筋を決めてから細かな要素を付け足すという方法を紹介しています。また、良質なプロセスを作ることが目的であるものの、想像ではなく、現実に即した内容を意識することが大切だと述べています。

例えば、顧客がビジネス提供側に求めているのは、自分だけでは解決できない問題を対価と引き換えに解決する手段です。実際に、サービスや商品は顧客の問題解決のために存在しており、対価もその問題を解決できる価値があると顧客が認めるからこそ、支払われるものだといえるでしょう。

また、プロセスラインは、それぞれのストーリーを描くことで最終的に1つの課題を解決することが大切な考え方になります。ITプロセス部分がソフトウェアやシステム開発者が関わる部分であるものの、そもそも主役ではなく、顧客にとっては道具の一部です。そのうえで、「顧客は、システム開発側の都合に応じて行動する義務はない」という意識を持つことが大事だと述べています。

本書の評価

本書は、システム開発の要件定義の前に必要となるプロセス設計をわかりやすく解説した入門書です。

システムを開発するエンジニアやプロジェクトマネージャーだけでなく、システムを作ってもらいたい人、つまりシステム開発の発注側に役立つ内容でした。

システム開発に関わっていると、「こんな新サービスを作ったら、凄いと思うんだけど。どう?」と相談を受けることが良くあります。具体的に話を聞いてみると、それを文書化したり検証したりはまったくしてなくて、頭のなかでプランだけができている妄想状態だったりします。試しに少しだけ実験したりプロトタイプを作ってみたりすると、すぐにボロが出て、実はまったく役に立たないアイデアだと判明することもあります。

もちろん、こうしたアイデアのなかにも、素晴らしいヒントが隠れていることがあるでしょう。しかし、それを頭の中から取り出して、検証可能な形にすることが重要かつ不可欠です。なぜなら、頭の中にしかないアイデアは、他の人に伝えられないからです。本当につじつまがあっているかチェックすることもできません。

プロセス設計は、こうしたアイデアを具体的な形にする手段と言えます。だから、プロセスを作り、改善していこうとする多くの人に役立つのだと思います。

一方で、実際のシステム開発において、システム発注側が自分たちの業務を見える化するのは簡単ではありません。業務の合間に片手間にやるには分量も多く、精度を高くするのも大変だからです。

大きな予算のシステム開発プロジェクトであれば、開始に先だってシステムコンサルタントにやってもらうこともありますが、なかなか精度は高くなりませんし、何より現在の業務を見える化するだけでは、理想の業務プロセスを描きだすことはできません。

マジカをはじめとする本書で取り上げたプロセス設計の手法は、実際に業務に携わる人たちが、楽しく効率よく仕事を洗い出す手段として役に立つでしょう。

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